大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(オ)497号 判決 1969年7月24日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山口源一、同服部猛夫の上告理由一について。

昭和三七年九月被上告人から本件家屋部分を賃借したのは、訴外伊藤六次郎であつて、上告人ではなかつた、とした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として首肯することができる。なお、上告人がその後右家屋部分において同人の名義で喫茶店を経営していたとしても、そのことから、直ちに、上告人が右家屋部分を賃借したものということはできない。また、原判決中上告人が右家屋部分の賃料を支払つていたとの判示部分はその趣旨がやや不明確であるが、原判文全体を通読すれば、この判示は、上告人が右家屋部分の借主として右賃料を支払つていたという趣旨ではなく、上告人がその計算において右賃料を支払つていたという趣旨、または、上告人が、右伊藤六次郎の使者ないし代理人として右賃料を支払つていたという趣旨であると解することができるから、右判示も原審の前記認定判断と何ら矛盾するものではない。原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした証拠の取捨判断および事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

同二について。

原審の適法に確定したところによれば、被上告人は、上告人の供託にかかる所論の供託金三六万円の還付を受けた昭和四一年三月ごろに至るまで一度も、上告人に対し、本件家屋部分を賃貸したことがなく、また、被上告人は、右供託金の還付を受けた右日時の前後を通じ、上告人が何らの権原もなく右家屋部分を不法に占有していると主張して、上告人に対し、その明渡等を求める本訴を継続していたというのであるから、これらの事実関係のもとにおいては、被上告人が右日時に右供託金の還付を受けたという一事をもつて、直ちに、被上告人が上告人に対し右建物部分を賃貸することを承認したものとは解しえない、とした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解を述べるものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例